6月1日 (木)  ふたたびフラメンコ!

「ふたたび」という単語はあまりそぐわないのかも知れません。チャランゴ演奏者としての活動が広がる一方でフラメンコギターはここ15年以上まともに人前で演奏していないのにかかわらず、「フラメンコ」という熱くディープなともしびはこの空白の期間にも常に自分の胸の奥で燃え続けていたのだから。また、チャランゴを知る以前から少年時代の自分の一番のあこがれはパコ・デ・ルシア(本稿2005年7月1日&26日分参照)の世界でした。

そんなブランクを打ち破って、実は最近フラメンコギターの特訓を、日本のフラメンコ界最高のギタリストである大御所のM氏(もちろん日本人)から受けています。非常にダンディーでクールな風貌は大昔から音楽雑誌などで拝見していたものの、実際にお会いしてみるとそのギャップに度肝をぬかれるくらい親しみやすいお人柄でした。しかも、初めてご自宅のレッスン部屋に入るなり目の当たりにしたのは、平日の昼さがりなのにお弟子さんやフラメンコ歌手である奥様とビールをひっかけてセッションしている光景!その瞬間このマエストロの門をたたいて正解だったことを痛感したもんです。そういえば僕もラパスでチャランゴのレッスンをしていた(授けていた)時にはたいていチュフライ(ボリビアのカクテル)を呑みながらやってたので、不思議な縁を感じました。

肝心のレッスン内容は、実に緻密で懇切丁寧、和やかな中にも音に対する厳しさが十分感じられるものです。フラメンコの奥深い魅力をあますところなく全身全霊で伝えてくれます。びっくりしたのは、課題曲の楽譜をその場で聞き取りながら鉛筆書きで驚異的なスピードで作成してくれる上に、オリジナルをそのままいただけること。他のお弟子さんのためにせめてコピーをとっておかなくていいのかたずねたら、なんと同じ曲でもその都度書いてあげているそうなのです。そして採譜するご自身にも毎回新しい発見があって面白いとか。絶句・・・。

パコ・デ・ルシアの師でもあった最晩年の大家ニーニョ・リカルド(1972年没)にスペインで師事したというマエストロの音は、いわばいぶし銀のようなシブいもの。あえて流行のスタイルに背を向けた、アンダルシアのひなびた香りのするその芸風はそばで聴くだけで鳥肌ものです。とにかくは、音楽的にも人間的にもただただ脱帽する以外にないこの新しい師との出会いを大切に、これからも精進して行きたいと思っています。そしていつか、いやいやなるべく早い時期に(善は急げ!)、かつて何度かたずねたフラメンコのふるさと・アンダルシアでワインとシェリー酒に酔いながら現地のミュージシャンたちと魂の交流を深めてみたい、そんな夢が常によぎっているこの頃なのです。

(後記)
ちなみに最近の僕の金科玉条は、上文章の最後に出た「善は急げ!」。
日本人は何か新しいことをやるにあたって腰が重い民族(よく言えば「慎重」ということでしょうが)、僕もその一人だったフシがありますが、それでは生きていて時間がもったいない!たとえ後で失敗しても自分が選んだ道なら後悔すべきではないと思います。

(写真)パコも使っている愛器エルマノス・コンデ(マドリードの名工)のフラメンコギター、2004年ラパスでのCD「チャランゴ巡礼」レコーディング風景より。

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