9月23日 (水)  カブールさん公演日記(4;東京公演)

カブールさんとの日々も9月23日(水)の
東京公演が最後、
新大阪のホテルでその日の朝を迎えた時には
早くも寂しい気持ちになっていました。

東京公演の会場は「チャランゴの集い」などでも
おなじみの場である築地キューバンカフェ。
連休中とあって集客はなかなか厳しいと予想していたところ、
開場時間(午後3時半)のなんと1時間も前からお店の外に
長〜い行列!、
お店側の電話予約リストには50名足らずしか記されていなかったのに、
実際には100人ものお客さんがつめかけて下さいました。

僕ら一同は新大阪から新幹線で正午過ぎには到着、
音響のプロでもある岡田氏の心強い協力のおかげで
サウンドチェックも滞りなく終了、
あとは最終公演の本番に向けてカブールさんも僕も
ちょっぴり緊張しつつ、
「この数日間本当に楽しかったねえ!」といろいろな
思い出話に花を咲かせました。

予定を15分ほど押して4時過ぎに開演、
前日の大阪では「お笑い」一色モードで
ご機嫌にはしゃいでおられたマエストロも
この日の東京は、やはりラスト公演ということも意識してか
ギャグはやや控え目、
語りの一言一言に落ち着きが見られます。
僕の通訳作業も前日より落ち着いてできたかと思います。

会場にはボリビアにゆかりのある方々も多数来ておられました。
中でも僕の方からお呼びした、
林屋永吉・元ボリビア&スペイン大使ご夫妻のお姿に
カブールさんもいたく感動していました。

林屋大使はカブールさん初来日の1980年当時に
ラパスの日本大使館に駐在しており、
奥様がカブールさんにチャランゴを習われていたというご縁。
カブールさんも前から事あるごとに大使との
思い出話をしてくれていたので、
80歳代というご高齢にもかかわらず
来ていただけてとても嬉しかったです。

プログラムの方は大阪公演とほとんど同じで、
前半はカブールさんの無伴奏ソロが主、
後半はギターとのドゥオ、そしてケーナ&サンポーニャが
入ったトリオ編成で新旧のレパートリーを織り交ぜて
たっぷり2時間の贅沢なコンサートでした。

何といっても前日と同じくカブールさんの演奏は絶好調!!、
前回(3年前)の来日時にはかなりお疲れだった様子でしたが、
今回は「完全復活」と言わんばかりの凄まじい迫力の
演奏を披露してくれました。
来場下さったみなさんもマエストロの健在ぶりを
目の当たりにして心底嬉しい気持ちになったのでは
ないでしょうか?

・・・大きな、割れんばかりの拍手と歓声の中、
無事にステージを終え、すぐに楽屋ではサイン会。

カブールさんは、ふと「今回の公演はとっても
楽しかった、君と演奏できて本当に嬉しかった!、
今度はボリビアでやりたいね」。
そんなお言葉にひたすら感激でした。
ラパスでの厳しいリハの日々を思い返せば
本当に泣けそうになりました。

そして、
「次回の日本ツアーは20年後にぜひやろう」。
20年後って、もうマエストロは90歳じゃないですか!?
「いやいや時なんてあっという間にすぎるよ」。

20年後といわず、また気が向いたときにいつでも
日本に来てほしい、そう言いたかったのですが、
やはり体力的にもきついのかもと思いました。

会場も撤収し、いよいよ別れの時。
覚悟はしていたものの、悲しさが込み上げます。
来年70歳というお歳にもかかわらず
僕らと一緒にスーツケースと楽器をしょって
東京→千葉のわが家→東京→大阪・兵庫→東京と、
4日間にわたって「大移動」させてしまい
申し訳なかったし、
アテンドする側としていたらない部分もたくさん
あったと今はいろいろ振り返って反省しています。

でもカブールさんのあの満面の微笑みを
別れる瞬間まで拝ませてもらえたこと、
それにいつも変らぬおおらかな人柄、
「チャランゴの世界的巨匠」という尊大さや
おごりはこれっぽっちもなく、
あくまでも純朴で時には子供のように無邪気で
お茶目なマエストロ・・・。

この数日間はまるで夢のような日々でしたが、
単なる「夢物語」や「個人的な思い出」のみに
終わらせてはいけない、
カブールさんから学んだことをこれからは自分の
演奏や人生そのものに活かさねば!、
そう強く心に誓ったものです。
それがマエストロへの何よりの恩返しっぽいものに
なればいいかなと思っています。

また、関西、東京と2度の公演はいろいろな方々の
ボランティアによるあたたかい協力なしには
実現できなかったことも付け加えておきます。

関西公演を取り仕切ってくれた近藤眞人さん、
音響の浜さん、その他関西のボランティアのみなさん、
美しいプログラムを制作・印刷してくれた石野さん(DIC資料館)、
キューバンカフェのオーナー清野さんはじめスタッフのみなさん、
サンポーニャ&ケーナで相変わらずの名演を聞かせてくれただけでなく
音響面にわたって細かいアドバイスをいただいた共演の岡田氏、
集客に協力してくれたグルーポ・カンタティのみなさんや
セノビアさん、
都内在住のチャランギスタの同志の方々、
公演に関して激励いただいた木下尊惇さん、
今回のきっかけを与えていただいた
「全日本チャランゴコンクール」の主催者井上ノエミさん、
そしてご来場いただいたすべてのお客様方・・・・・。

加えて、カブールさんの最大の理解者で太陽のような明るさで
僕らにもあたたかく接して下さった奥様のネグラさん、
また立派にスペイン語を駆使してわが家でアテンドしてくれた
妻と、慣れない外国からのお客さんにも笑顔をふりまいてくれた息子の瑞希にも
感謝の気持ちでいっぱいです。

最後にカブールさんの今後の一層のご健康と活躍を
お祈りして、この公演日記を終えることにします。
(完)