月日のうつろひ 2005. 7
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7月26日 (火)  パコ・デ・ルシアの演奏会

つい数週間前の本コーナーに書いたばかりの超人ギタリスト、パコ・デ・ルシアの来日の報に接したのはその直後のことでした。今回は4年ぶりの来日で愛知万博での演奏のために来たそうですが、東京でも3回の一般公演がありその最終夜である今日聴きに行って来ました。僕にとってはパコを生で聴くのは7年ぶり。それにしても、何だこの興奮と緊張は!と思わせるような雰囲気が早くも開演前に、2千人で満員の東京芸術劇場には漂っていて、実際僕も手のひらに汗までかいていました。そしてパコがまずは1人で登場、割れんばかりの拍手と歓声が静まり最初のコードが弾かれてから2時間もの間、彼の自由自在の超絶テクニックともはや深すぎる音楽性に酔いしれました。「情熱のフラメンコギター」なんていう宣伝文句もパコのステージには無用、とにかく「アーティスト」としての偉大さを強烈に感じさせるカリスマ一色に彩られた夜でした。そういえばパコは25年位前のインタビューで「存在するのは音楽家であって音楽ではない」という名言をはいていましたが、当時中学生だった僕はその意味がディープすぎて訳が分からなかったものです・・・。

さて、今までのパコのコンサートではソロは最初の2曲程度で後は他のメンバーとのセッションが主体となっていましたが、今回は前半の1時間、時折サポートメンバーが登場する他は基本的にソロギターだったので、これもギターフリークにとっては大きな喜び!幕開けはロンデーニャという、ギターの3弦を通常のソからファ#に半音下げることによって独特のアラベスク風の旋法を生み出すフラメンコの古い一形式に基づいた即興。早くもいつもの超絶スケール(早弾き)が炸裂していたが、最終公演のせいか58歳にもなるパコに若干の疲れが?、と思わせる節もありました。しかしそれは単にまだノッていなかっただけであって、以後のソレア・ポル・ブレリア、ブレリアス、ミネーラ、アレグリアス(註;全てフラメンコの形式名)ではこれでもか!というくらいの迫力で聴かせたのです。まさに怒涛の名演。ミネーラの最後部分はなんと懐かしのファンダンゴ・デ・ウェルバのパコ流ファルセータ(フレーズ)が入り、斬新なコード&スケールの中にもパコの体に流れ続けるアンダルシアの血というものを思い起こさせるもので、なにかしみじみとした気分にさえなりました。休憩をはさんでコンサートの後半はグループ(ラテンパーカッション、エレキベース、女性フラメンコボーカル、キーボードなど)によるフュージョン色の濃い演奏でしたが、こちらもけっこう懐かしいパコのオリジナルナンバーが揃い、また、新曲の中にも即興で昔のフレーズが出てきたりして、古くからのファンにはたまらない内容だったと思います。とにかくコンサート終了後も、全身全霊を完全にノックアウトされたような状態でしばらくは何も考えることが出来なかった程の、それは凄すぎるコンサートだったのです。うーん、まさに「存在したのは音楽でなく音楽家」だったんですね!

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7月18日 (月)  ナガモリ(つくば市)でのライブ

昨日の連休中日に、つくば市の老舗メキシコ料理屋「カサ・デ・ナガモリ」でのスペシャルライブを終えてきました。僕はつくば市での院生時代、もう今から13年も前にこの店を知ったのですが、あれから細く長いおつきあいをさせてもらっており、今回の店内ライブも実に7年ぶり。内容的にはホセ犬伏氏(ギター)とのドゥオでいつもやっているレパートリーが中心でしたが、なんせ普段はテーブルわずか3席の狭い室内に25人くらいのお客さんがつめかけて下さったので年代物のクーラーはほとんど効かず、演奏が始まると僕ら2名はたちまち汗だくになってしまいました。その過剰な熱気の中で、お客さんで来ていた昔の演奏仲間・千田史彦氏の本場ボリビア仕込みのケーナも入り、曲目はますますバラエティ豊かなものとなりました。同じく途中飛び入りで、つくば在住のベテラン・フラメンコギタリスト冨田巌夫さんのいぶし銀のような渋い演奏も入って、更にテキーラもまわりいい感じ。

しかーし!、当夜の空気を支配していたのは何と言ってもマスターのナガモリさんでした。実際に、ラテン文化を愛してやまない氏の熱い、そして押し一辺倒のスタンスに尻込みするお客さんも多く、1回でこの店に行くのをやめてしまう人もいるとか・・・、でもそれにも増してこのマスターの人柄に惹かれてすっかり常連になる人の方がもっと多いことも知っています。それも、タジキスタンで亡くなった筑波大の秋野先生(本コーナー2月分参照)や元筑波大の精神科医・小田晋など、これまたとりわけ個性的な人物ばっかし・・・、というか僕もその1人なんですが。日本のたいていのメキシコ料理店は、お客さんにペコペコして店も綺麗にしている割に料理がインチキだったりする、特に米テキサス風のテックス・メックス料理だったりするが、この店はまさにその正反対を行ってる(この日はライブ営業で料理はなく残念!)。まあとても万人にはオススメできませんが(笑)、ラテン大好きなガンコ親父の話を聴きながらメキシコの本物の田舎料理を味わうのを求めるならイチオシの場です。ちなみに僕のアミーゴだと言えばきっと良くしてくれますよ、あのマスターは。

(カサ・デ・ナガモリの情報、HPなどはないので。)
住所:茨城県つくば市松代3-4-28
電話予約:029-852-1745



7月11日 (月)  木下尊惇ギター4重奏を聴いて

今夜は常に日本のフォルクローレ界をリードするギタリスト・木下さんのライブに行って来ました。今回の企画は同氏のギターに加え、小林智詠、笹久保伸、犬伏青畝という新しい世代のギタリスト各氏とのセッションという実に興味深い構成でした。4重奏のほかにも各自のソロや木下氏と笹久保氏のドゥオなどバラエティ豊かで飽きさせないプログラムでした。しかも面白かったのは、木下氏が述べておられた通り各自の個性、演奏スタイルは全く異なるものでありながら、同時に、結果としてフォルクローレ・ギターのスタイルの豊かさを改めて認識させられる貴重な機会ともなったことです。4艇のギターが鳴り響くさまは実に迫力満点!、しかもボリビア音楽の分野では世界的にもめずらしい画期的なものでした。

今回は木下さん自身初の試みだったそうで、おそらく試行錯誤を重ねておられるのだと思いますが、全体にセンスの良いアレンジと各自に順番に主旋律などを持っていくあたりはさすがと思わせるものがありました。ただ、舞台の位置関係上(木下氏が前面に、そして他の3人は後方にいる形)、共演者3人の音や弾きざまがよく感じ取れなかったことが若干気になりました。また通常は管楽器と打楽器のみで奏でられるアウトクトナ(ボリビア先住民系の田舎の音楽)のギター4重奏という聴き応えのあるナンバーもありましたが、特に若手3人には譜面を越えたもっと自然な演奏が求められると思います。ともあれ、新しい世代の奏者との共演を絶えず試み、自身の音楽世界をますます深めて行こうとする木下さんの意欲あふれるステージには圧倒されっぱなしの2時間、近年の日本のフォルクローレ界ではまれに見る充実したライブでした。


7月5日 (火)  愛・地球博でのママニ・ママニ

昨日、アンデス共同館(ボリビア、ペルー、エクアドル、ベネスエラ4カ国)から招待いただき初めて愛知万博を訪ねて来ました。月曜日、しかもあいにくの雨ながらも各国のパビリオンは賑わっていて、特にヨーロッパ館など長蛇の列でしたが、関係者によれば普段はもっとすごい人混みで2時間も並ばなければならない事も茶飯事だそう。さて、アンデス諸国の会場を案内されて一番驚いたのは、ママニ・ママニ(Mamani Mamani)さんというボリビア人画家としては最も世界的に活躍している、民俗調の画風で知られる巨匠級アーティストが、小さなカウンターで作品やポストカードなどを紹介していたことです。もちろん僕も15年以上前からママニ氏の作品には惚れ込んでいましたが、ご本人に会ったのは初めて、しかも本当に気のいいタダのおっさん(決して失礼な意味でなく)という感じなので、すぐに仲良しになれました(こういうのが南米の芸術家の素敵なところなんですね)。その後はパビリオン内で4カ国スタッフの方々からリクエストがあったので、いきなりチャランゴと唄で「ゲリラ演奏」をかましましたよ、生ビールもらって2時間も、それはもう大騒ぎ!!南米の人達だけでなく、その場に居合わせた日本の入場者の方々にもすごく喜んでいただけたようです。そして「宴もたけなわ」の頃、なんとママニさんが、会場で展示販売している豪華絢爛な分厚い作品写真集に、サインと僕の簡素な似顔絵まで描いてくれてプレゼントして下さいました。あまりに恐縮した、というか正確には嬉しさがこみ上げたので、たまたま持ってきていた僕のCDを差し上げました。皆さんも万博に行く機会があれば、ぜひアンデス共同館を訪ねてみて下さい。

なお、ママニ・ママニ氏の作品は下記サイトの「ART」欄でいくつか鑑賞出来ます。http://members.tripod.com/mamani_mamani/


7月1日 (金)  パコ・デ・ルシアの新譜を聴いて

パコ・デ・ルシアの新譜(と言っても昨年発売だが)「コシータス・ブエナス」を聴きました。ここまでの境地に至ると、内容についてあれこれ述べるのもしらじらしく思えるほどの高みに達している作品です。ご存知でない方のために、パコは1947年スペイン・アンダルシア地方生まれのフラメンコ・ギタリストで、デビュー(14歳)から半世紀近くにわたる大活躍によってジャンル問わず世界中のギターフリークに神のように慕われている超天才ギタリストです(詳細は関連サイトを)。僕がその驚異的な演奏を生で初めて聴いたのは中学2年の時だから、もう25年も前の話!あの時ほど度肝を抜かれたと同時にギターはもう止めようと痛感したことはなかったと記憶しています。翌日ギター教室の先生に「あれはキチガイだから気にしなくていい」と慰められたことも(笑)。

で、今回の作品について。1976年の名盤中の名盤と評価されているアルバム「アルモライマ(←最初にパコを聴く方にはこちらをオススメします)」を経てパコは他ジャンル(主にジャズ、フュージョン、ロック)の名人との共演に積極的になり、それが彼の音楽を一層斬新なものにさせます。その後20数年間に出たアルバムの多くはなんらかの「迷い」や時には「悲愴感(=その最たるものが98年の前作「ルシア」)」を感じさせるものだったのですが、この「コシータス・ブエナス(素敵なもの)」では今までになくリラックスしてフラメンコを楽しんでいるように思えます。アルバムの曲の多くがギター、カンテ&パルマ(唄&手拍子)、パーカスによる素朴な編成で、奇をてらったようなアイデアは前面に出てこない。もちろん複雑なハーモニーや絶妙の即興は相変わらずだけど、キューバン・フュージョン色の強いラストの1曲を除いては完全にフラメンコの故郷であるアンダルシアのトーンが勝っていて、聴いているこちらもつい赤ワインやシェリー酒を傾けたくなる、そんな気分にさせられる楽しいスリリングなアルバムに感じます。関係ないけれど、僕のチャランゴのアルバムを聴いてシンガニ(ボリビアの蒸留酒)を飲みたいな、と思ってもらえる日が来るならなんて幸せなんだろう、とふと思いました・・・。

↓COSITAS BUENAS (2004) ↓ALMORAIMA (1976)

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