第2回チャランゴの集い〜センテーリャスに捧ぐ〜

2006年11月12日、東京四ッ谷のコア石響にて2年ぶり2回目の「チャランゴの集い」が行われました。今回は闘病中のウィリアム・センテーリャス氏のためのチャリティという主旨の下、日本で活躍するチャランゴ奏者にくわえ、来日中のエルネスト・カブールの賛同も得られ、木下尊惇氏とともに出演くださいました。この企画は日本でのチャランゴ演奏の研鑽の一助になるもの、また、現時点での日本の演奏レベルを示す指標ともなるものであると思っており、それを記録として残すのが主催者側の責務であると思っております。私Ishinoも出演しなかったもののこの企画に賛同し運営に加わった一人として、当サイト内にその足跡を刻むことにしたいと思います。
私個人の感想は別掲とさせていただき、以下では福田大治氏が自身のサイトに掲載されましたレポートを転載させていただきます。



日本の第一線で活躍するチャランゴ奏者による合同ライブ「第2回チャランゴの集い〜ウィリアム・センテーリャスに捧ぐ」は、ボリビアから来日中の世界的名匠エルネスト・カブール氏をお迎えして2006年11月12日(日)に東京・四ツ谷のコア石響で開催され、空前の大盛況に終えることができました!お客さんと関係者100人以上でいっぱいになった会場の熱気は忘れられません。
今回はここ数年難病療養中のボリビアのもう一人の巨匠ウィリアム・センテーリャス氏にたいするチャリティーで、当日の収益をすべて同氏にお送りするという目的のもとに行われました。それぞれの演奏レベルの高さとともに、満杯になったお客さんのおかげでこの「一大目的」も十二分に果たせたように感じています。ここでは簡潔ながらリレー形式でプログラム順に振り返ってみました。

まずこの歴史的イベントの口火をきったのは、まだ20歳代の三ツ木慎悟氏。ギターにやはり新鋭の新里崇司氏を迎え、偶然にも(?)3曲ともDAIJITOの「チャランゴ巡礼」に含まれるレパートリーを演奏してくれました。先月のコスキン・エン・ハポンでも聴かせてもらったのですが、今回はそれにも増して落ち着いた雰囲気の演奏、音色にも磨きがかかっており、日本のチャランゴ界では末恐ろしい存在です。

次に登場したのは今回のレギュラーメンバーでは最年少の桑原健一氏。昨年まで1年間ボリビアでチャランゴ修行をしていた成果はまんべんなく発揮されており、また自信に満ちたステージパフォーマンスはすでに大器の片鱗を感じさせます。とりわけ自作曲ではユニークな才能を見せてくれました。なお、ギターは卒業後もたくさんの奏者を輩出している筑波大フォルクローレ愛好会OBの安岡恒氏でした。

3番目には、この日わざわざ仙台からかけつけてくれた植月加奈氏。実はこの人は2001年に1年間ラパスにチャランゴ留学に来ていたのでよく知っていましたが、帰国後は仙台でソロを含めた広範な活動を展開しているとのこと、遠方より今回参加してくれて本当に嬉しかったです。女性ならではの(という言い方は古いけれど)繊細な感性で、しかものびのびと演奏してくれました。同じく仙台から来られたいずれもベテラン音楽家の辻英明氏(ギター)と大内明彦氏(パーカッション)による好サポートも光っていました。DAIJITOも1曲、センテーリャスのVolveras(帰っておいで)のギター伴で参加しました。

プログラムの4番目に登場して下さったのがスペシャルゲストのエルネスト・カブール氏(チャランゴ)と木下尊惇氏(ギター)。カブールさんといえば「チャランゴの神様」とか「巨匠中の巨匠」というキーワードが真っ先に頭に浮かぶと思いますが(→それは100%事実なのですが)、私が知っているカブールさんはそういう派手な文句があまり似合わない、ごく親しみやすい素朴な哲学者といった感じの方です。
センテーリャス氏にたいするチャリティーコンサートはボリビア本国でも何度も行われており、僕もカブールさんも幾度か参加しているのですが、今回の日本での「チャランゴの集い」の話を数ヶ月前にラパスでカブールさんにもちかけた際、マエストロは喜んでふたつ返事で快諾して下さいました。その後、現在日本を一緒にツアー中の愛弟子・木下さんのご協力とご理解のおかげで当日のゲスト出演が実現したわけです。そういう意味でも今回の「集い」は「歴史的」なイベントとなりました。
さて、チャランゴをかかえて舞台に登場したカブールさん、いつもながらの気さくな雰囲気で聴衆に語りかけます(通訳は木下さん)。中でも「1973年にセンテーリャスさんらとともに発足させたSBC(ボリビア・チャランゴ協会)はその後時代は下って97年に「国際チャランゴ・フェスティバル"Encuentro Internacional del Charango"」の開催を実現させ、今日まで継続させている。この日本でのチャランゴイベントや、またオランダやメキシコなど世界中でチャランギスタたちが結集しているのを見ると私たちSBCの活動は無駄ではなかったと思います」の一言が、ボリビアのみならず世界のチャランゴ界の父として慕われるマエストロの存在そのものをあらわすものとして深く胸にしみ込みました。また「SBC日本代表であるダイジ・フクダがちゃんと日本でもその仕事をしていることが分かりました」と言って聴衆の笑いを誘ったのも、自分としては感無量でした。
演奏のほうは語るのも野暮。どういう言葉で表しても表しきれないからです。少し高齢だから、ハードなツアースケジュールで疲労気味だから、などと「冷静に」指摘するのも考えてみれば愚の骨頂。ただただ、ひとつの歴史を築いた偉大な存在である同氏の指先、そして魂から発せられるあたたかみのある音色と奏楽に心から感動せざるをえない、そんなひと時をあたえてくれたのです!

カブールさんのゲスト出演が終了したところで休憩時間となり、会場ではチャリティー目的でドリンクやチャランゴのCD(福田大治『チャランゴ巡礼』、TOYO草薙『東洋の風』など)や教則本(ルイス・サルトール他著『CHARANGO MASTER』)が販売され賑わいました。

そして後半の最初には富谷雅樹氏が登場。富谷さんは実は93年11月開催の日本でチャランギスタらが初めて一堂に会した「マウロ・ヌニェス没後20周年コンサート」(「私論ラテンアメリカ」コーナー「日本でチャランゴを考える」参照)にも出演しており、それ以来なんと13年ぶりにお会いした、日本チャランゴ界ではベテラン中のベテラン。この日も氏が得意とするカブールのソロレパートリーやポトシ地方のカランペアード(田舎のスタイルでの弾き語り)で貫禄に満ちた演奏とアンデスにこだまするような透き通った歌声を聴かせてくれました。

次は日本を代表するプロ奏者のTOYO草薙氏の出番、いつもながらの落ち着いた雰囲気で登場され、自作曲をおりまぜ安定した超絶技巧で聴衆をうならせるあたりはさすが!またクラシックギターの名曲「アランブラの想い出」をチャランゴソロにアレンジ、洗練されたトレモロを聞かせました。
後半には若干13歳のお弟子さん高藤君も舞台に上り息もぴったりの師弟コンビで楽しませてくれました。そういえば最近の新進気鋭のチャランゴ奏者の多くがこのTOYOさんに師事している(または過去にした)という事実は、氏の日本チャランゴ界にたいする貢献ぶりを十分に物語っています。

後半の3人目は保坂幸恵氏。2004年11月にボリビアの新人登竜門として権威あるアイキレ・チャランゴコンクールで優勝し、その後すぐの12月に「第1回チャランゴの集い」に出演、センセーショナルな日本ソロデビューを飾ったことは記憶にも新しいのですが、その後もペルー人グループのハタリ・インカなどに参加し地道に演奏活動を展開しています。 この日も生涯の伴侶である保坂大介氏のギターとともに彼女特有の抜群の歯切れのよさと柔らかな感性が同居したようなセンスある演奏を聴かせてくれました。この「集い」の常連としても今後ますますソロ分野での活躍が期待されるところです。

最後に自分の演奏。最後というプレッシャーはまったくなく、それよりも今回の会が大盛況に幕を閉じつつあることをリアルタイムに感じつつ、すでに感激の気持ちでいっぱいでした。ギターに超絶のスパニッシュギタリスト小林智詠氏、そして最後にケーナの福田響太郎氏を迎え、精一杯の演奏をこころがけたつもりです。何よりもセンテーリャス・チャリティーということで、最後にアンコールも含め3曲連続でセンテーリャスの曲を演奏しました。お客さんにもこの偉大な作曲者の手による音のモザイクのような繊細な芸術が少しでも伝わったならとても嬉しいです。
イベント終了後は、近場で呑み放題の打ち上げ、もちろん楽器も弾き放題!・・・確かにすべてのイベントにあるように色々な問題はありました。しかしながらコア石響のようなマイクなしの優れたアコースティック空間でたくさんのお客さんにチャランゴの本当の生音を存分に味わっていただけたことは確かであろうし、また御大カブール氏が与えてくれたチャランギスタの結束にかんするメッセージは今回出演した演奏者の方々すべての胸に刻まれたのではないかと思っています。センテーリャスさんへのチャリティー目的が果たせたことも大きな成果ですが、それと同じくらい、今後の日本のチャランゴ界の明るい未来が開けてきたようで、もう感謝感激以外にありません。
また、後日びっくりしたのは偶然にも時をほとんど同じくしてフランス(11月11日)とカナダ・モントリオール(同9日)でもセンテーリャス氏チャリティー合同コンサートがそれぞれの国のチャランギスタらによって開催されていたとのことです(リンク参照)。 今回、ノーギャラで出演して下さった演奏者の方々はもとより、裏方でも何人もの方々にお世話になりました。中でも経理関係を見事に統率して下さった荒川美樹子さん、チャリティー用に著書『CHARANGO MASTER』をご寄付下さったルイス・サルトールさん、CDを寄付下さったTOYO草薙さん、ボリビア盤CDを寄付いただいたほか、当日配布のプログラム印刷のご労力と経費をすべて寄付下さった石野雅彦さん(DIC資料館)、数々のご寸志をいただいたチャランギスタの方々、受付や販売などイベント運営にご協力いただいたすべての同志の方々に主催者として心からお礼申し上げます。ありがとうございました!、そして、VIVA EL CHARANGO!!(完)


このチャリティ・コンサートの収益の288,524円はセンテーリャスさんの治療費として、ボリビアに送る予定となっています。